牧場小屋
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エッセイ
ああ言えばこう言え!
目次
ああ言えばこう言え!その6
現在はたぐい稀なペットブームである。
犬や猫に限らず、最近では、珍獣さえもペットとして飼う時代である。
ワニやらカミツキガメやら、名前を聞いただけでも恐ろしさがイメージできてしまうわけだから、本物に遭遇したときの驚きは、想像を絶するものであるに違いない。
そのような珍獣をペットとして飼育する人の気持ちを、私は皆目理解することはできない。
私は蛇を最も苦手とするのだが、それをペットとして飼育するなどとんでもない話であり、蛇を見かけただけでも、いやたとえそれがゴムのおもちゃであったとしても御免である。
蛇の方もその私の気持ちを察してか、4年に一度程度しか姿を見せない。
それに比べて、犬は毎日必ずどこかでお目にかかれる。
もちろん私も大歓迎である。犬の方も警戒する素振りすらしない。
それどころか、どんな猛犬と言われる犬でも、私の前ではもうイチコロ、すぐに寝そべって腹を見せてクネクネさえしてくれる。
近所の犬の話である。既に老犬になってしまったが、子犬の頃から親しくしている犬がいる。

飼い主とも挨拶を交わす間柄である。
飼い主はその犬のことを「コロ」と呼んでいる。一方私は「カール」と呼ぶ。
子犬の頃の表情がまるでスナック菓子のキャラクターである「カールおじさん」そっくりだったからである。
犬の方もよく心得ていて、「よぉ、カール!」と呼ぶと、本当に嬉しそうに近づいてくる。
まさに千切れんばかりの尻尾の振りようである。
よほどカールという名前が気に入っているに違いない。
しかし、飼い主はその事実を知らない。ある時、散歩中のカールと遭遇した。
そこで私は迂闊にもいつものように「よぉ、カール!」と呼んでしまったのである。
上品な飼い主は「あらっ、カールじゃなくって、コロなんですわよ」と、微笑みながらご指導下さった。
誠にご丁寧な飼い主である。
しかしいくら飼い主であっても、長年にわたって培われてきた私とカールの厚い友情までは窺い知ることは出来ない。
カールはやはりカールであってコロではない。
そんな、その辺りにころころと転がっている小糞のような名前をカールが喜んでいるはずがない。
私にとってカールはカールでよいのである。
私にとっては、カールは麦藁帽子のよく似合うカールなのである。
甲山羊二
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