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エッセイ
ああ言えばこう言え!
目次

ああ言えばこう言え!その45

 昔も今も図書館は夏という季節に最適な場所である。昔は今のようにエアコンなど完備されてなかったと記憶しているが、少なくとも夏の強い日差しを避け、暑さをしのぐという点においては、十分快適な場所であった。また、夏休みともなれば、本好きの私がほとんど毎日通う楽しみな場所のひとつでもあった。学校には、特に中学校には、休み中であるにもかかわらず、気持ち悪い先生や随分変った連中が大勢たむろしていた。それに比べると、図書館には上品できれいでかわいい女性の職員が何人もいた。普通の感覚の持ち主であれば、近づく場所は学校なんかではなく、当然図書館を選択するはずである。
 実は、私が図書館に通う楽しみは他にもあった。それは恋である。何しろ、メールなど無い時代のことである。相手を口説くにはひたすら言葉と態度に頼る他ない。いわゆる、見事なまでの押しの一手のみなのである。もちろん、本当に押し倒してしまうと、これは立派な犯罪になってしまう。こうして、女心と自分自身の素養と許容を実地で体得し、立派な大人へと成長していったのである。私にとって図書館は淡い恋心が詰まった場所でもあったわけである。
 活字は人間の能力を開花させてくれる大切な栄養源である。もうひとつ、女心を服用することでその効果は倍増する。昔も今も図書館は大切な場所なのである。


甲山羊二
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