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エッセイ
ああ言えばこう言え!
目次

ああ言えばこう言え!その42

 約束は守らなければならない。また守れないような約束はするべきではない。一方で、守らなくてもいい約束もある。民法では、公序良俗に反する約束は守らなくてもいいとある。これは大変分かりやすい。
 中学3年生の娘を子どもに持つ私の友人がいる。いい奴なのだが、律儀すぎるところがあり、周囲から少々疎まれがちである。当然、家族からは少々どころか、完全に疎まれていて、誰からも相手にされていない。唯一相手にしてくれていた金魚も、昨年の夏に永眠してしまった。
要するに孤独なのである。奴がその孤独さを身に染みて知った事件とは次のようなものである。
 まだ娘が小学校6年生の時である。小6だといって馬鹿にしてはいけない。乳房は膨らみかけて、いよいよ女性としての肉体へと変化しようという大切な時期だからだ。そんな娘が入浴中、奴はある約束を果たすために全裸でバスルームの扉を開いた。
「ずっとパパとお風呂に入ろうね」
最近、そう言えば約束を果たしていない。これは大変なことである。教育によろしくない。これが奴の論理である。バスルームの扉を開いた瞬間、娘の罵声が中に響き渡ったという。
「これ以上来ると殺すぞ!」
 この論理は正しい。しかし、奴は納得いかない。罵声とお湯を浴びせられた奴は、前張り無しでキッチンへ向かった。
「下着はどうしたぁ!」
 留めは妻の罵声である。こういうのを英語では、「The end」という。すべては終わった。
 約束は果たそう。しかし固執するばかりに信用を失うことは止めよう。まさに奴は生きる教訓なのである。
甲山羊二
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