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エッセイ
ああ言えばこう言え!
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ああ言えばこう言え!その41

 私の友人で「お持ち帰り」を趣味としている者がいる。通常「お持ち帰り」といえば、お寿司屋か鰻屋に行った際の、自宅用折り詰めを指すものである。あるいは、スナックやラウンジの可愛いお姉ちゃんを自宅に引き連れることを指す場合もある。しかし、友人はそのいずれの「お持ち帰り」にも該当しない。彼が対象とする「お持ち帰り」とは、なんとぬいぐるみなのである。
 ゴミと一緒に出されてしまったぬいぐるみ。路上に転がっているぬいぐるみ。駅の改札の券売機あたりでうなだれているぬいぐるみ。彼が「お持ち帰り」するのは、そういった誠に哀れなぬいぐるみたちであり、その数は年間50を越すというから驚きである。
 彼に「お持ち帰り」されたぬいぐるみは、汚れが落とされ、ほぼ元の状態に戻される。なかには、なかなか手に入りにくいものまであって、彼の「お持ち帰り」はほとんどコレクターと変わらない有様である。
 驚きは続く。「お持ち帰り」されたぬいぐるみは、キャラクターに関係なく、全て名前が付けられる。例えば、くまのプーさんも彼の手にかかれば「くまのポーさん」になってしまう。「プーさん」と「ポーさん」の違いは極めて大きい。プーさんにとっては迷惑な話である。
 先日、久しぶりに彼の自宅を訪れた。そこには笑顔のプーさんがいた。いや、ポーさんがいた。ぬいぐるみにも慣れということが起こるのだと私は実感した。

甲山羊二
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