牧場小屋
Top
エッセイ
ああ言えばこう言え!
目次

ああ言えばこう言え!その37

 人にはそれぞれ好みというものがある。牛好き、豚好き、鳥好きなど様々であるが、もちろんこれはペットの話ではない。れっきとした食べ物の話である。
 私の友人に無類の鳥好きがいる。鳥とくればどこへでも出掛け、必ずそれをものにし、食べ尽くす。まさに彼の存在は鳥にとって天敵以外の何ものでもない。以前、私が飼っていたつがいの可愛いセキセイインコを見るなり、「美味そうな鳥じゃないか」などとニヤリとしながら近寄ろうとしたことがある。その時は妻に命じて緊急避難をさせて何とか難を逃れた。とにかく彼の頭の中は鳥だらけで、鳥以外のことは考えないようにしているらしい。一度、彼御用達の鳥料理の店に同行したことがあったが、そこでの店員との会話がこれまた恐ろしいものであった。

彼「この鳥はいつにもまして新鮮で良いよ」
店員「ええ、何しろさっきまでパタパタしてましたから」
彼「ほほう、さっきまでパタパタかい」
店員「ええ、あの断末魔の鳴き声がまだ耳に残っておりますぜ」
彼「いや、これは良い。何だかその鳴き声が聞こえるようだ」
彼&店員・・・不気味な笑い・・・

パタパタで断末魔だから、聞く側はたまったものでない。まさに残酷とはこのことである。とにかく究極の鳥好きである。しかしそれゆえの失敗もあるらしい。
ある時、彼の息子が学校で悪さをして、不幸にも謹慎処分となった。何かとやんちゃなこの息子に、父親である彼は久しぶりにその権威を振りかざすつもりでこう言った。
「この、骨付きの悪ガキめが!」
※正しくは「この、札付きの悪ガキめが」なのだが・・・
 当然、権威は完全に崩れ去った。しかし、彼には鳥がある。鳥への野望は永遠に続く。

甲山羊二
←36章を読む 38章を読む→