牧場小屋
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エッセイ
ああ言えばこう言え!
目次
ああ言えばこう言え!Ⅱその7
絵のことになると本当に僕は全く落ち着かなくなる。やはり僕にとって絵とは描くものではなく観るものなのである。
とはいうものの苦手意識を何とか払拭したい。そしてその結果、何よりも周囲をあっと驚かせてやりたい。いや、屈服させたい。そして嘘でもいいから一度は画伯殿呼ばせたい。そういう極めて純粋な思いから習い始めた絵であるが、残念ながらこれまたほとんど進歩らしい進歩が見当たらない。ちなみに先生は若くてとても美人だ。しかも親切丁寧に手取り足取り指導される。いやはや、何とも申し訳がない。
そう思っていたところに、朗報が飛び込んで来た。やはり神はこんな僕でも決して見放さなかったのである。
「定期的な交換絵日記をやってみましょう」
手早く描くのは絵日記が最も良い。しかも先生のお手本が定期的にやって来るのである。
とにもかくにも絵日記などいつ以来だろう。
「全く君の絵に出てくる人間は骨だけで全く身が付いてないじゃないの」
小学校の時の担任のこの言葉に僕はかなり深く傷ついた。しかし今回は事情が違うのだ。
あの時の口紅もささない盛りを既に過ぎてしまったようなおばさん先生とは雲泥の差なのである。
「さらりと描くのよ」
「自然な一番なのよ」
これで僕が画伯殿と呼ばれる日もそう遠くはない。
甲山羊二
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