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エッセイ
ああ言えばこう言え!
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ああ言えばこう言え!Ⅱその20

 僕の知人に無類のカピバラ好きがいる。彼の前ではいかなるカピバラ批判も決して許されない。動物園ではカピバラへの挨拶は必須、時には笑顔で喋りかけたりもする。周囲から奇異に見られようがおかまいなしだ。僕も無類の動物好きだが、その知人のようにはいかない。お犬やお猫に喋りかけることもなくはないが、一応は世間体というものを気にする。但し業務以外で人間に話しかけることはない。僕は僕なりに筋を通す。
 カピバラは草原の支配者を語源とする。歯に特徴があって、一生伸び続けるという。ただし、それが逆に命取りになることもあるという。人間も歯が命。そこはカピバラと共通している。
 温泉に浸かってうっとりするカピバラを見ていると、なるほど確かに気持ちが癒される。いや、カピバラだけではない。猿もそうだ。ああいう光景は実に微笑ましい。逆にあれが人間なら心中は妬みと嫉みに変身する。或いは嫌いな上司なら、ついそのまま湯船の底へと沈めたくなる衝動に駆られることもあるだろう。カピバラも猿も人間以上に徳というものが備わっている。
 ところでカピバラ好きのその知人、最近では何と顔つきまでカピバラっぽくなってきているからこれまた驚きだ。これはまさしく癒し系。きっと良い老後を迎えられるに違いない。

甲山羊二

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