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エッセイ
ああ言えばこう言え!
目次

ああ言えばこう言え!Ⅱその18

「創作活動10年目にあたって」
 私、甲山羊二はこれまでに実に多くの人間を傷つけまた殺めてまいりました。その内実たるもの、老若男女問わず、学力も問わず、偏差値なども一切問わず、さらには職業さえも問わず、その数は既に遥か天にまで届いていることでしょう。その一方で、決して生かしてはならない種類の人間を平然と野へと放ち、それを未だ放置し続けている現状についても、ここに告白をしなければなりません。傷つけ殺めたその罪、そして野へと放ったその罪、それらいずれについても決して許されるものではないでしょう。ここにこの場をお借りして心より謝罪を致します。
 次に、私は虚偽をあたかも真実のこととして発表していた事実をここに告白致します。虚実は虚実、真実はやはり真実、カモメはカモメ、雀はどう足掻いても雀に他なりません。嘘は泥棒の始まりなどと言われますが、虚実は甲山の始まりとなれば、これはまさに一大事です。ご先祖様、或いは遠い祖先のお猿様にも会わせる顔がありません。今後は表現技術を大いに高めるとともに、真実のみを追求し、それのみを創作の対象とし、疑惑の目をむけられぬように、日々精進をしてまいる所存です。
 ところで、よくよく考えてみますところ、人間を誰ひとり傷つけることなく、また殺めることなく、創作活動が円滑に進むことなどありえましょうか。さらには、全くの虚実抜きに、ひたすら真実のみを追求し、作品を仕上げることなどありえるはずもないでしょう。
 例えば、日本昔話においては、人間を食い殺す鬼が登場しますし、奇妙な老人が花を咲かせたりもします。また「桃太郎」では、あのような巨大な桃が沈まずに流れるはずはなく、それを単純な驚きでもって眺める神経もやはりどうかしています。山へ芝刈りに出掛けた爺さん、川へ洗濯に行った婆さん、一体全体その生計は何に依っていたのでしょうか。年金制度などない当時において、あの老夫婦にはきっと優良なスポンサーがいたに違いありません。実は私はそれがかの有名な〈桃太郎侍〉であったのではないかと推測するのです。
 「竹取物語」に至っては憤りさえ覚えます。度を超える竹の伐採は明らかに自然破壊です。さらに光り輝くかぐや姫の衣装は、またその着せ替えは、さらには翁によるセクハラの有無など、疑問は次から次へと湧き出てきます。それにあのおびただしい黄金も眉唾です。私には先物取引による投機の結果としか到底思えないのです。
 よって、実際は反省の欠片などない、形式的な謝罪などは早々と取り消し、今後も人間に対する殺傷能力を高めるとともに、危険人物の多くを野へと放ち、虚実に満ち満ちた創作を続け、時には隠蔽に努め、大いに呆れられながら、決して飽きられない作品を発表してまいる所存です。何卒、ご愛顧の程を宜しくお願い申し上げます。
甲山羊二

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