牧場小屋
Top
エッセイ
ああ言えばこう言え!
目次
ああ言えばこう言え!Ⅱその17
僕は怖い話が大好きだ。幽霊やお化けや妖怪など、もう得意中の得意で、何時でも仲良くなる準備は既にできている。だがしかし、先方からの連絡はまだない。僕にはないが、周囲には時々ある。それが何とも悔しい。
先日、知人の女性が夜道で幽霊に遭遇したと大真面目に話してくれた。
「家族の誰も信じてくれないから、せめて甲山さんには信じて欲しいの」
それで、それを信じる代わりに、僕の経験した怖い話をして差し上げたら、さらに彼女を震え上がらせてしまう結果となってしまった。もちろん僕が経験したなどというのは全くの嘘だ。
僕は幽霊もお化けも妖怪も知らない。信じていないのではなくて、本当に知らないのだ。随分以前に、ある事情で宿泊先を探した挙句にようやくたどり着いたのが事故部屋だった。それでも幽霊もお化けも妖怪も現れてはくれなかった。おかげでぐっすり眠れたが、僕の場合体質がこうだから仕方がない。
幽霊もお化けも妖怪も怖くなくはないけれど、やっぱり人間の方が僕にとっては最も厄介な存在だ。それでいて時々妙な興味までそそられてしまうから、どうにもこうにも人間は困った存在だということにもなる。それに人間の腹の中ほど怖いものはない。そこにはきっと非科学的以上に非科学的なるものがウヨウヨうごめいているに違いない。
幽霊もお化けも妖怪も元はといえば人間か、或いはそれに類する存在だったのだろう。それでも僕には元人間よりも現人間の方が怖い。非科学より科学中の科学の方が怖くてどうしようもないのだ。
甲山羊二
←16章を読む 18章を読む→