牧場小屋
Top
エッセイ
ああ言えばこう言え!
目次
ああ言えばこう言え!Ⅱその16
最近はちょくちょく物忘れ現象が起こる。起こって欲しくないけれども、起こるものは仕方がない。統計的には、先ずは他人の名前が最も忘れやすい。もちろん自分の名前や家族やペットについては忘れない。次に忘れやすいのはちょっとした小物類の置き場所だ。酔っ払って無造作に置いてしまったのが、いったいどこにあるのやら、無いと困るものではないにしろ、有ったらとっても便利な小物類がその類だ。さらに統計を分析すると、番組などの録画もそれに入る。録画したことさえ忘れてしまう。気が付くともう半年も過ぎている。ちょっと寂しくなる。
一方で、決して忘れることのないものもある。これも統計で言えば、過去の嫌な思い出はずっと覚えている。かつてこの僕をさんざんイジメ抜いた悪ガキ連中の名前も顔も性格もちゃんと記憶している。同じく嫌な先生だって決して忘れない。これも名前はもちろんのこと、髪の毛の有無や紅の濃淡、はたまた歯並びまで記憶しているのだから、自分で自分をつい褒めてやりたい衝動に駆られてしまう。
また、美味しいものも忘れない。銘酒や珍味も忘れない。それに可愛いお姉ちゃんが大勢いたあの店も忘れてはいない。お姉ちゃんひとりひとりの名前だって忘れたりするものか。加えて、それぞれの身体的特徴もこれまた忘れようにも忘れられるものではない。
こうして統計を細かく分析していると、結局はどうでもいいようなことは忘れるし、どうでもよくないことは忘れていないことがわかる。なるほど、名前を忘れる相手など、所詮は忘れてしまったほうがいい相手なのかもしれない。だいたいが向こうだってきっと僕の名前など記憶の片隅にもないはずだ。それに小物類だって同じかもしれない。それはまるで気まぐれな小娘のようなものだ。ふっとどこからともなく姿を現し、しばらく僕から離れることはない。
物忘れは気にすることはない。こんなことを書いているうちに、物忘れさえ忘れてしまった位なのだから。生きていれば色々あるのだ。
甲山羊二
←15章を読む 17章を読む→