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エッセイ
ああ言えばこう言え!
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ああ言えばこう言え!Ⅱその13

 先日、一匹の子ガメを家に連れて帰った。もちろんそれは正真正銘のカメであって、どこかに内緒で住まわせていた若い女(または熟女)ではない。仕事からの帰り道、とある路地の真ん中でまるでうずくまるようにしていた子ガメ。それこそ僕が連れ帰ったカメなのだ。
 実はこれがまた不思議なもので、歩いているとどこからか声がした。「近くに子ガメがいるぞ」との囁き。もちろん声の主は不明だ。そしてそのカメを発見したのはそれからすぐだったのだから、これはまさしく天の声他ならないと僕は固く信じている。仮に天の声でなかったにせよ、僕には動物との間接的交信ができるのかもしれない。一体全体、ひょっとして僕の前世はカメだったとしたら・・・。実際、カメとはよく気が合う。既に我が家には大きく成長した二匹のカメがいるが、大体の気持ちは理解してあげることができる。僕とカメとの縁。これについてはさらに綿密な調査と慎重な議論が必要となるに違いない。
 とにもかくにも、子ガメは元気に暮らしている。餌もよく食べる。それに僕の話にもじっと耳を傾ける。僕にもそんなカメの心が十分に伝わる。相思相愛とはこのことをいう。
 こんなことを言うと、家人までが僕の前世はカメだったと推測するようになった。推測はそのままではよくない。証明しなければならない。ただし背中には甲羅の跡はない。あるのはサロンパスとエレキバンと生え渡った毛くらいのものだ。証明への道は実に険しい。

甲山羊二

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