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エッセイ
ああ言えばこう言え!
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ああ言えばこう言え!Ⅱその12

 今回は意を決して僕の過去を白状することにする。実はこのことは誰にも打ち明けることなく、棺桶を経てあの世まで持参しようと考えていた。しかし、果たして実際にあの世という世が存在するのか、はたまたそうした重荷を受け入れてくれるのか、最近は甚だ疑問に感じることがある故、この世にいる間に赤裸々な過去を打ち明けてしまおうと心に決めたのだ。どうか怒りを抑えながら読んで頂きたい。
 僕はある時期まで業者運営サイトのブログをやっていた。これは甲山羊二としてではない。麗しきひとりの乙女として、定期的にいや頻繁に更新をしていた。設定は、10台後半、彼氏なし。ただし最近までいたが相手の浮気で別れたばかり。昼間は学生で、趣味はお菓子作り。ミスチルのファンで、時々中島みゆきによる籠り癖もある・・・といった具合だ。キャラクターを決め、頻繁に着せ替えなどもして、時々他のキャラクターが集う公園らしき場所などにも出没したりしていた。そうしたマメさが功を奏したのだろうか。どんどんファンが増え、プレゼントまで送られ、仮想の家にまで遊びに来るようになった。「やばい」と思った僕は、その乙女に彼氏を与えた。ちなみに内容は全て乙女の言葉による。
 「彼ぴょんできちゃった コクったらうんって?・・・お初のデートは・・・秘密ニャン」
 これで言い寄る男が減ると思ったのが間違いだった。逆に男心に火がついたのだろうか。どんどん交際の申し込みがやってきた。次の手となれば、これはできちゃったしかない。
 「彼ぴょんのママにあってお話したら、がんばってっていわれたよう。泣いちゃった。大好きな彼ぴょんのあかちゃん産むよ。ママになる」
 騒動の輪はさらに広がった。続々と寄せられる励ましの言葉。ポイントで入手したプレゼントの数々。後は、彼ぴょんとやらを殺害するか、遠く海外へ逃亡するしか道はない。しかし、神は僕を見捨てなかった。妊娠といえばつわりだ。激しいつわりでブログどころではない。という口実で3年間の物語は終わった。
 時々、表情のない彼ぴょんとやらが夢に出てきて飛び起きることがある。とにもかくにも僕は罪深い作家だ。しかし反省はしない。おかげで女性の会話文は得意中の得意となり、その後の作品に活かされている。赤裸々な過去も、明かしてしまえば実に楽なものなのだ。

甲山羊二

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