牧場小屋
Top
エッセイ
ああ言えばこう言え!
目次
ああ言えばこう言え!その29
不景気で物が売れない。だからとことん値引きしましょうと、各店では熾烈な値引き合戦が展開している。
値引きされなくても、必要なものは買わざるを得ないが、値引きされて安価であることに越したことはない。
私の知人は、店員が値引きシールを商品に張るまで店内で粘り続ける。相当の忍耐力である。しかしこれなどはまだ序の口である。別の知人などは磨かれた演技力で実績を上げ続けている。
まずは衣装である。敢えて貧しい衣装をどこからともなく購入し、それを身に付けて買い物に出掛ける。次に共演者を募る。募るといっても応募するものなど誰もいない。そこで子どもが強制的参加となる。そしていよいよ実践である。
子どもに靴売り場めがけて突進させる。欲しい靴の片方だけを子どもはじっと眺める。時には手に取り、溜息をついたりする。そこに親が登場する。台詞はこうである。
「ママ、いい靴だよ。欲しいなぁ」
「馬鹿なことを言うものじゃないよ。一体どこにお金があるって言うんだい」
「だって、欲しいんだもん」
「いい加減にしな」
・・・子どもべそをかく・・・
「いいかい、諦めるんだよ」
「嫌だ」
・・・子ども片方の靴を決して離さない・・・
「ママ、片方だけ買ってよ。お小遣い貯めて、絶対もう片方を買うから」
「仕方ない子だねぇ」
仕方ないのは親の方である。しかし、この演技に店員は負けた。片方だけ買われても店としては大いに困る。
この親子、超安価で一足の靴を入手、またまた実績を上げることとなった。少しの勇気と少しの涙、そして親子の固い絆、これが勝利の要因だという。
私などは忍耐力も演技力もない。酔っ払って、気が大きくなってしまい、大量の豚饅と餃子を買って帰ってしまい、毎度家人にしかられる始末である。
甲山羊二
←28章を読む 30章を読む→