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エッセイ
ああ言えばこう言え!
目次
ああ言えばこう言え!その26
痴漢冤罪が社会問題になっている。
これは全く他人事ではない。通勤で満員電車に乗車せざるを得ない身の上の私にとって、このような冤罪に巻き込まれないとも限らない。
吊革を両手でぶら下がったり、握り棒を抱きしめたりして、それなりに策を講じてはいるが、いつ魔の手が忍び寄るか、次なる策を講じる必要に迫られる毎日である。
男性である私が痴漢の被害に遭うことはまずない。
遭うのは痴女の被害ということになる。痴女といえば、忘れられない思い出がある。
数年前のある休日のこと、私は素人で満員の電車に乗車していた。こういう場合の素人の特長は何といっても声の大きさにある。
私は扉付近で目を閉じながら、素人の意味のない会話にうんざりしていた。
その時である。私の股間をリズムよく何かが打ち始めた。
目を開けると、後ろ向きの女性が、私の股間めがけて手を振っている。コン コン コン。心地良いリズムだ。
小柄でちょいと魅力的な後姿の女性。コン コン コン。なかなかリズム感があって良い。いやいや、本当は感心などしている場合ではないのだ。
私は勇気を振り絞って、その女性に声を掛けてみた。振り向いた女性に私は失神しそうになった。
そのリズミカルな女性は、既に盛りとサカリを過ぎた老女だったのである。
女性は、いや老女は申し訳なさそうにこう言った。「傘の柄と勘違いしまして・・・」恐ろしいほどの詭弁である。
官僚もびっくりとはこのことであろう。大体、自由に伸縮する傘の柄などこの世に存在するのであろうか。不思議な傘の柄である。
盛りとサカリを過ぎていたかに見えたその老女。確かに盛りは過ぎていたが、実はいよいよこれからサカリを向かえようとしていたのかもしれない。
大器晩成型老女、恐るべしである。
甲山羊二
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