牧場小屋
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エッセイ
ああ言えばこう言え!
目次
ああ言えばこう言え!その15
旅は良いものである。日常の錯綜した現実から離れて、ゆったりとした時間と空間に身も心も委ねて、ひとつひとつの風物への思いに浸る、何とも旅の醍醐味はこれに尽きる。
私はホテルよりも旅館派である。
それも高級旅館というよりは、民宿に限りなく近いアットホームな旅館が好みである。
金の無かった学生時代には、旅といえば概ね野宿だったが、それでも余裕のある時などは、素泊まりで旅館を利用したものである。
柔らかな布団に身を委ねた暁には、寝小便をしてしまいそうなくらいに快感を覚えたものであった。
しかし中には、驚きと恐怖で寝小便をしてしまいそうな、そんな旅館もある。
卒業して数年を経て、学生時代の仲間達と、田舎の温泉に出掛けたことがある。
なかなか雰囲気の良い温泉町、歴史を感じさせる旅館、浴衣姿で歩くカワイ子ちゃん、そしてひと風呂浴びて呑むビールの旨さの格別なこと、そうこうしているうちに、仲居さん仲間とちょいと親しくなり、ならば夜中に一緒に呑もうではないかということになった。
年輩の仲居さん達ではあったが、それでも熟女のお色気を少しは振りまきながらの宴会となった。
ところがその仲居さんたち、宴会が進むにつれ、なかなかの茶目っ気は結構なのだが、遊び心が半端ではない。
散々こわ~いお話を我々に聞かせた後は、外からヌッと幽霊のように登場するは、いつの間にか押入れに隠れて急に飛び出して来るは、散会した後も、今度は妖怪のような化粧に白装束で侵入してくるはで、それはまるで「貸しきりスーパー化け物ショー」のような有様であった。
適度にスリリングな旅行もそれはそれでなかなか楽しいものではある。
しかし極度にアットホームかつスリリングな旅館は全くもって困ったチャンである。
ましてやサスペンスな仲居は、心臓にはデンジャラスである。
甲山羊二
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