牧場小屋
Top
エッセイ
ああ言えばこう言え!
目次

 ああ言えばこう言え!その14

 人はそれぞれに、適度なコンプレックスを持ちつつ生きている。
コンプレックスは克服などしないほうがよい。
それを克服する為の無理がたたり、そのことで新しいコンプレックスが生み出されてしまう可能性があるからだ。
 私には、小学校低学年から引きずるコンプレックスがある。
その頃、私にとって音楽といえば、歌謡曲がすべてであった。
学校の音楽の教科書は面白くもなんとも無い。
他の国の民謡に、無理やり日本語の歌詞を押し付けて、「大きな口をあけて歌いましょう!それっ!!」などと言われる度に、骨盤がずれる思いがしたものだった。
おまけに担任は無類の音楽好き、時間割を歪めてまでして、週に一度は生徒に自分が決めた楽曲の実演を押し付け、イチャモンをつけるナルシストだった。
 ある日のこと、我慢の限界を既に超えていた私は、実演での縦笛の演奏の最中、「僕はもう吹けない!」と高らかに叫び、即興のオリジナル曲『へびつかいのうた』を演奏したのである。
これがまた大いにうけた。
その後は『チャルメラのうた』や『おばけがでるぞ~のうた』などのヒットで一躍スターに、縦笛にとどまらず、ピアノでも『怒りの行進曲 ラッタッタ』では即興の天才とまで評された。
しかし、当時文部省認定の先生にはすこぶる評判は悪く、実演を拒まれ、音楽の成績は見るも無残に落ち込んだ。
おかげで、私はまともに譜面が読めない。
音符など、私にとっては、天日干しされてしまった不幸なオタマジャクシにしか見えない。
ギターのコードを受け入れることはできても、悲しく切ないオタマジャクシを受け入れることはできずに今日まで至るのである。

甲山羊二
←13章を読む 15章を読む→