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甲山羊二オフィシャルブログ
Writing by 甲山羊二
 オフィシャルページにある奥の部屋で、コラムでもなく、エッセイでもなく、もちろん小説でもない、ただのつぶやきをほんの少しだけ形にしようとする。
 僕がつぶやくことで僕自身が導かれ癒され納得する。
 それもいい。
 さすが典型的B型人間甲山羊二だ。
 だからいい。やはりいい。


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横溝正史
横溝正史
金田一耕助
名前を聞くだけでゾクゾクする…
そのゾクゾクはどこから来るのか

それは繰り広げられる事件の余りの陰惨さだろう
だがしかしただ陰惨なのではない

そこには必ず生身の人間がいる
愛憎と愛情と怨恨と遺恨が渦巻く

殺さずにはいられない
それは単なる欲求ではない
それは運命であり宿命でもある
人間の持つ悲しさとやるせなさ
横溝正史の世界はもはや推理小説の枠を遥かに超えてしまっている
『犬神家の一族』はその象徴たる名作中の名作だ

『仮面城』を最近手にとってみた

何とも表紙がいい
角川文庫はそこから始めてくれる

だからいいのだ
2021-03-29 00:00:26[497]


寺田寅彦
肩書を並べよう
物理学者であり、随筆家であり、
更に俳人でもある
野暮な表現だが理系と文系の異なる分野を見事に上手く使いこなす


名随筆を挙げる
『柿の種』
ここには随筆家だけではなく俳人としての顔を覗くことができる

『地震雑感-津波と人間』
中公文庫
『天災と国防』
講談社学術文庫
いずれも随筆でありながらその領域を見事なまでにはみ出している

評論と随筆を合わせ持った名著だ

余談をひとつだけ
中勘助の随筆中に夏目漱石との交わりが登場する…
先生と生徒、先生と学生、そして文壇の先輩後輩…
更には死の直前までの関わりがそこに記されている
随筆中に寺田寅彦の名を一度だけ見ることができる
その夏目漱石に師事した文学者としての寺田寅彦…
漱石と中勘助と寺田寅彦の三人…
何ともその取り合わせは贅沢だ…
だから文学はいい
2021-03-22 00:14:11[496]


ビゴー的日本
『ビゴー日本素描集』
『続ビゴー日本素描集』
岩波文庫

フランス人の風刺画は日本でもよく知られている
それは少々強烈で中には頭にくるものも含まれる
フランス人のブラックユーモアは時に理解し難い
しかしビゴーは理解の範疇に入る

明治中期の日本を描いたビゴー…
その画はまさしく正当ユーモアに満ち溢れている
外国人から見た日本人の生の姿…
それを文章ではなく画で知ることの有意義さを本書は教えてくれる

ビゴーは日本人を奇異なものとは捉えていない…
それをひとつのある意味独自の風土として風俗として理解している

更にいうなら…
自らの描く風刺画によってそうし
た理解を深めようとさえしている

僕はそう思う…

続編にはビゴーの侍姿の写真が掲載されている…
ビゴー流のユーモアは尽きない…
尽きないどころか自らもユーモアの対象としていた節さえも伺える

本書もまた貴重な資料他ならない

但し無理に読まなくていい
感じればいい…
それで十分だ
2021-03-08 00:30:02[495]


珠玉の随筆
『中勘助随筆集』
岩波文庫

中勘助の名を聞けばその殆どの人は名作『銀の匙』を思い浮かべる

それでは一体なぜ『銀の匙』が多くの人に読み継がれているのか
理由は実に明快だ
そこには時代の香りが漂うからだ

更には見知らぬ時代を頭の中でスクリーンの如く思い描くことができるからだろう…
それらが読み手に許容されている

無理な押し付けが一切見られない

『銀の匙』は名作中の名作である

今般挙げるのはその名作の著者たる中勘助の随筆集
明治42年から昭和38年の間に記された作品11を所収
中勘助の人となりが十分に伺える


静かで冷静な人…
文壇の外にいて自由であった人…
その評価はこの随筆集に全て滲み出ている気がする

作家の独自性とは
それは堕落した内輪の論争に迂闊に巻き込まれないことから始まる

距離を置くべき対象を見定める…
かつ向き合うべき対象を逃さない

安易な迎合から独自性は育たない

同時に名作も生まれることはない

「中勘助」の時間
それは決められた時代ではない…
まさしく「時間」
読者はそこに自由に自分を委ねる

珠玉の随筆ひとつひとつがそれを
無理なく与えてくれる気がする
2021-02-22 00:00:04[494]


金閣寺焼失
『金閣寺を焼かなければならぬ』
内海健
河出書房新社

今年令和2年は三島由紀夫没後50年の節目に当たる…
これを機にして三島由紀夫に関する著作物が色々と出版されている

作品の書評然り、盾の会関連然り

或いは著名人との対談本も然り…
どれもこれもが似たり寄ったりとも言えなくはない
当該著作はそれら似たり寄ったりを超えたところに位置付けてよい


三島の代表作のひとつ『金閣寺』

これは実際に起こった事件をモチ
ーフにしていることは知られる
著者の内海健氏は先ずはこの事件の犯人である林養賢という人物の心理構造を明らかにしていく…
精神医学を専門とする著者ならではの視点だろう…
更には作品の登場人物や三島由紀夫本人への切り込み方も斬新だ
三島本人や三島作品へのアプローチに新たな視点を与えてくれる

そしてもうひとつ
著者は三島に対しても作品に対し
ても要らぬ感情移入を避けている

本著に爽快さを感じるのは実にそうした点が大きい

兎にも角にも必読の書であることには間違いはない
2020-11-16 00:00:43[493]


中国という国
『大地の咆哮』
杉本信行
PHP文庫

本書は
『ODA幻想』
古森義久
海竜社
からの導きである

両書は中国という国を如実に語る

前書は外交官としての立場から…
日中平和友好条約締結両国交渉期を起点としている
もちろんODAにも言及している
後書はODAから日本並びに中国を政治的経済的に深く掘り下げる
著者の古森氏がその自著で良書として挙げたのが『大地の咆哮』だ

著者の杉本氏が自らの生命を摩耗しながらも外交官として取り組んだこととは何か…
それはひょっとして中国という国家相手ではなかったのではないか

国家ではなくむしろそこにいる国民ではなかったか
いや著者が対峙していたのは日本人であり中国人ではなかったのか

中国人との対峙
そこから中国という国を類推する
中国という国…
結局国柄は人によって決定される

国家とは空洞だ…
民衆の存在があって初めて組織化されていくもの…
それが国家なのだ
外交官にとって国家という組織との対峙は謂わば国民や民衆との間接的関わりそのものを意味する
僕の考えは幼稚で稚拙だろうか

本書は単なるもはや随筆ではない
後世に残すべき価値ある資料だ…
中国そして中国人という国を知る

いくら時を経ても民衆の性根は変わることはない…
本書はそのことを教えてくれる
2020-11-02 16:29:04[492]


50年を読む
令和の今年は三島由紀夫没後50年の節目の年になる
それに因んで三島関連本が数多く出版されている…
ひとまず現在の時点で興味深いものをふたつだけ挙げておきたい

『三島由紀夫を巡る旅』
徳岡孝夫
ドナルド・キーン
新潮文庫

これは以前に中央公論社から刊行された作品の改題文庫化である
三島とドナルド・キーンの直接の交友はとても知られるところだ
三島の遺書二通のうち一通はキーン氏に宛てられていたとされる
徳岡氏は自決の当日に楯の会会員から手紙と檄を受け取った人物だ

両氏は三島作品所縁の土地を巡る

また時々にキーン氏の三島の人となりが語られる…
徳岡氏の記者ならではの緻密な文章がキーン氏の語りを引き立てる

奈良から津和野、そして松江へ…
名文が時間を忘れさせてくれる

『三島由紀夫1970』
文藝別冊
河出書房新社

三島由紀夫という人間を表から裏から評した論文集
三島自身の論文も収録されている

左右の三島評が網羅されていてなかなか興味深い…
資料として是非残しておきたい

没後関連本は11月25日の憂国忌前後まで続けて出版されるだろう
僕が読みたいもの
はっきり言おう…
それは楯の会会員が三島由紀夫をどう捉えていたか
事件をどのように受け止めたのか

事件前とその後で三島観に変化はあったのかどうか
客観的な視点はこの際全く不要だ

そういう著者とその著書との出会いを期待している
2020-10-18 13:31:56[491]


日本論並びに日本人論
『歴史の真贋』
西尾幹二
新潮社

西尾先生の著書はほぼ網羅した…
「月刊誌-正論-」に掲載された論文も全て目を通した
そしてこれまでの西尾論の集大成

所謂日本論並びに日本人論の総まとめというべきか
正直いって本書はその位置にあるものと僕は思う…

西尾先生の日本論は相当手厳しい

もちろん日本人論は正面からバッサリ斬り込んでくるから凄まじい

その根幹にあるものとは一体何か

それは紛れもなく西尾先生流の歴史観他ならない…

西尾先生は語る…
事実が歴史なのではないのだ
事実について異なる過去の人々の思考と信心と伝達の総和が歴史なのだ

日本人が如何に歴史に無知であるか
日本人が如何に日本について無知であることを延々としているか
過去についても
現在についても
もちろん未来的類推についても…

平和に胡座をかく
それを平和ボケと人は揶揄する…
但し揶揄する側もされる側もボケからの脱却を図ろうとはしない…
アメリカの狡猾さに気付いていて
も検証に至らない
歴史を裏側から見ようとはしない

敗戦国日本の側から世界見る視点を持とうとしない
西尾先生は私たちに怠惰を教える

本書に小林秀雄や三島由紀夫についての触れがあることも必見だ…
数年前の憂国忌での西尾先生の講演を思い出させる

日本の歴史はどこから始まるか
日本人の起源をどこに求めるか
それらの問に一体どう答えよう
本書は軽い文芸書では決してない

かといって重い専門書でもない…
本書は考える書だ
読んで考察をする
これ程有意義な読書は他にはない
2020-10-04 15:40:48[490]


響きと余韻
『間違われた女』
小池真理子
祥伝社文庫

名前は実に大切だ
殊筆名は誰の記憶にも留まった方がいい…
その意味において
小池真理子
こいけまりこ
コイケマリコ
KOIKE MARIKO
間違いなく誰の記憶にも残り易い

今般久しぶりに小池真理子の文庫を手にとってみた
一時小池作品を片っ端から読み漁ったことがあった
男女の心の機微…
いや心の絡み合い
ただただ淫靡な肉体関係にはそう簡単に走らない…
肉体の絡みではなく心の絡み合い

今でも小池作品に飽きてはいない

時々戻りたくなる
そこが魅力なのだ

本作もまた期待を裏切らなかった

舞台は「あとがき」により1988年

メールでなく手紙
携帯やスマホでもなく固定電話と公衆電話…
アナログな世界とパラノイアの男

時代が心地良く錯誤する
しかし筋はあまりにも陰惨な悲劇でもって結末する

人間の運命は分からない
人間はそうした不透明で不明確で不明瞭な複雑怪奇な中で生きていくしかない
本書はそのことを改めて教える…

それでも人間はやはり生きるのだ

小池真理子はそう語っているのか

自らの名前を大いに響かせながら


いやいや違う…
記憶に残るのは名前だけではない

何ともいえない独特の余韻が本書から漂ってくる
小池真理子の世界はやっぱりいい
2020-09-21 18:59:21[489]


戦後を辿る旅
9月1日に拙書『戦後を辿る旅』が甲山羊ニの個人レーベルまきば出版から刊行された

日本にある戦跡を僕自身が訪れ、それを紀行としてではなく小説としてまとめ上げた

各戦跡ごとの短編小説の集合体だと考えてもらえれば都合がいい

旅は靖國神社参拝から始まる…
英霊に頭を垂れる
ここから知覧へ…
そして万世へ
また鹿屋へ
旅は広島から長崎、更に舞鶴から兵庫県加西を経て、極東国際軍事裁判法廷へ、そして大阪へと続く

ひとまずの旅の終着は沖縄だ…
伊江島から本島へ
旧海軍司令部壕内で敗戦の屈辱に身体を震わせる…

終戦ではなく敗戦
これはこれまでに僕が執拗に口にしてきたことだ…
記念ではなく屈辱
敗戦屈辱日を終戦記念日とする腐敗した歪曲こそが現代日本の平和ボケ現象を形作ってきた最大の要因に他ならないのではないか…

こういう記述をすると必ず人は甲山をこう評する…
奴は右翼作家だ
奴は好戦作家だ
奴は平和を破壊する扇動作家だ
などなど…

評価は有り難く頂戴しておこう
そして世の中の暇人共に拍手喝采を返礼しておこう
そこにしっかり弔辞を込めつつ…

今年は敗戦から75年の節目の年
その年に適って拙書を刊行する
この喜びは他に喩えようがない

旅はまだまだ続く
いや実際に続いている
真の鬼畜とは何かを考えながら…
それに強い憤りを覚えながら…
この世に生きている限りこの旅は延々と続いていく

そして…
『戦後を辿る旅』
その続編もまた当然範疇にある
2020-09-05 14:22:53[488]