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甲山羊二オフィシャルブログ
Writing by 甲山羊二
 オフィシャルページにある奥の部屋で、コラムでもなく、エッセイでもなく、もちろん小説でもない、ただのつぶやきをほんの少しだけ形にしようとする。
 僕がつぶやくことで僕自身が導かれ癒され納得する。
 それもいい。
 さすが典型的B型人間甲山羊二だ。
 だからいい。やはりいい。


■公式ホームページ


宮沢賢治
『宮沢賢治の真実』
今野勉
新潮文庫

宮沢賢治の世界に陶酔する人多い

それは文学なのか
それとも思想か…
はたまた両方か…
賢治の世界を知らない僕には殆ど見当はつかない…

本書は賢治の世界を静かに暴く…
修羅の恋はその最初の扉だろう
そして国柱会入会
思想の形成は具体的になっていく

加えて妹とし子の恋とその病…
さらにはその死…
それらもまた賢治の世界に少なからず影響を与えた

これらの事象は決して陶酔者ではない初心者の僕にも興味を強く唆られるところだ…

賢治の世界を伺う別の書籍がある

『サガレン』
梯久美子
角川書店

樺太を南北に鉄道により旅する…
賢治とロシアを結ぶ線を垣間見る

チェーホフという存在もまたそのひとつになり得る
本書はその点を紀行的に追って丁寧に読み手を導く

そこでやはりチェーホフを読みたくなるというのは読書の広がりとしては良いことだ
『六号病棟』や『退屈な話』等…
ひとつの世界が新たな別の世界へ
と繋がって行く…

実は繋がりはこれに留まらない
『サガレン』はまた林芙美子にもしっかり繋がる…
しかもまたチェーホフは村上春樹にも繋がっている
何と愉快で不思議なことだろう…
だから読書は止められないのだ…
2021-08-02 00:44:46[505]


憑き物と祟り
『民間信仰』
桜井徳太郎
ちくま学術文庫

信仰を取り上げるのは難しい…
それを論じるのは地道な調査と裏付けが必要となる
それも民間信仰となれば一挙に論じる幅が広がる…
ただ一方的に面白可笑しく取り上げるのではない…
本書は柳田国男の民俗学の流れを汲む著者が著した
だから綿密さと緻密さに加えて読み手を惹き付ける文書力を感じる

憑き物と祟り…
それを迷信と片付けるのは簡単だ

簡単でないのは人々の暮らしと風土を言説と形態に繋ぐ作業だろう

暮らしのないところに憑き物はない
風土のないところに祟りもない
ましてや風土を無視しては暮らしなど成り立たない

学術研究書としては十分資料となり得るのが本書だ
それを僕がどう活かしていくのか

課題は当然ある
2021-07-19 10:14:20[504]


宗教弾圧
少々訳があって…
大本弾圧について書籍を集めた
同時に大本の教祖についても同じく書籍をあたった
ここではその詳細については控えることにしたい…
もちろん理由も敢えて書かない

宗教をモチーフにした小説で是非とも読んでみたかったものがある

『邪宗門』
高橋和巳
河出文庫

この作品は大本弾圧を下地にしたものとされている
また作品自体の文学的評価もかなり高いものがある
いずれにしても宗教という極めてナイーブな問題を取り上げている

「触らぬ神に祟りなし」ではない
人はその神が真なるものであれ、偽なるものであれ、それに惹きつけられてしまうという習性を持つ

人の生き方もその人生も実は極めて虚無的なるもの
そうした心理を重層的にしかもダイナミックに本書は描写している

著者の筆致も光る
名作は人を唸らせ思索を与える

例えばの話をする
同じ宗教問題を松本清張ならばどう書いたのだろう
清張は大本弾圧に関する資料を多く収集したと聞く
ここはもはや興味の域を出ない
清張もまたダイナミックにそれを描いたに違いない

大本並びにその弾圧についてのお勧め文献は以下…

『出口なお』
安丸良夫
朝日選書

『大本襲撃』
早瀬圭一
新潮文庫

『大本教祖伝』
伊藤栄蔵
天声社
2021-07-05 09:59:24[503]


ドストエフスキー
ドストエフスキーを腰を据えて読む時間をつくる…
などと言うと次のようなお叱りを受けることになる
「そうした時間などは幾らでもつくれるはずだろう」
そうした叱責に対して抗う言葉を僕は持っていない
そして何故ドストエフスキーを遠ざけていたのか…
それについても未だまともな抗弁
ができないでいる

ドストエフスキーについては小林秀雄の名著がある

『ドストエフスキイの生活』
新潮文庫

ドストエフスキーは作家でありかつ思想家でもある
小説のなかにある字面を追うことはできても彼の思想に何処まで迫ることができるか
僕の言い訳は実のところ根本的にはそこに所以する

読むという行為は思慮を深めること他ならないというのが僕自身の確固たる持論だ…
ドストエフスキーが思想家でもあるならばそこを無視して読むことなど許されない…
腰を据えてその作品を読むという機会を虎視眈々と狙っていたのは実はそれが理由だ

ドストエフスキーに一歩近づく…
遅ればせながら…
そこに何を求め何を受けるのかを楽しみにしながら
2021-06-21 10:51:50[502]


人間と文明
『極北』
マーセル?セロー
村上春樹訳
中公文庫

セローの作品を初めて手に取った

経歴と同じく小説もまたインテリジェンスな香りは確かに伺える
しかし押し付けがましさを控えた筆致にはむしろ親近感さえ覚える


本著は四部構成からなる長編だ
「私」と「ピング」のふたりの偶然の接触からその話は幕を明ける

そして初期段階でふたりの事実が読者に明かされる
驚愕は活字の追い方をリズミカルなものに変える…
そうして本著の持つ世界観へと引き込まれていく…

人間とその人間が創り上げた高度な文明との対峙…
人間が対峙せざるを得ないもの
それはまず自然だ
自然の摂理には人間は逆らえない

しかしまた一方で自然は人間に脅威を与えながらもそれを究極の祈りへ導く力を持つ

だがしかし文明はそうはいかない

それは時に人間を徹底的に滅亡に追いやろうとする悪魔に変貌する

人間による創造が人間に刃を向く

人間自らの破壊
残るのは果てしない絶望だけだ
そうした思慮を読者に導くところもセローの実に巧妙なところだ

長編を読み進めるにはそれ相応にパワーが必要だ…
それを下支えするのが訳者の持つ力だと僕は思う…
その意味では十分な読み応えと満足感を得られる…
セローの世界観
その心地良さは思慮へと繋がる…
そうした流れに委ねるのもいい
2021-06-07 00:00:05[501]


詩人リルケ
『マルテの手記』
リルケ
新潮文庫

初めにきちんと断わっておきたい

僕は韻文に弱い…
嫌いではないが苦手な領域であることは間違いない
だから<詩人リルケ>を語るだけの資格を持たない…

詩人が小説を書くとどうなるのか

島崎藤村の詩と小説をふと思う
詩人としての藤村
小説家としての彼
その乖離は歴然だ
ではリルケの場合はどうだろうか

文体はどうなのか
描写はどうなのか
尤も本書の構成は極めて特殊だ…
あらゆるジャンルを取り入れてそ
れをまとめている
日記に随筆に当然の如く詩もある

あらゆる顔と顔…
興味をそそられるのは仕方ない
しかしリルケは藤村とは異なる…
リルケは藤村よりも更に多彩だ…
僕の興味は裏切られることはない


本書には人間が醸す暗部が随所に立ち込めている…
もちろん絶望は究極に他ならない

但しそれは終局面では決してない

絶望が人間を支えることもある…
本書はその意味で希望の書とも言えるのではないか

絶望そして希望…
対局にあるふたつを巧く盛り込む

しかも絶望のなかにある希望を詩的に描写していく
むしろ訴えていく
もう間違いない…
リルケは正真正銘の詩人だった
ただ自分勝手に僕はそう思うのだ
2021-05-17 10:37:35[500]


奇縁と凶縁
『棟居刑事の凶縁』
森村誠一
中公文庫

森村誠一といえばあの「証明シリーズ」を先ずは思い浮かべる…
『人間の証明』
『野性の証明』
いずれも角川映画のヒット作だ
僕は原作はもちろん映画も観た
『人間の証明』はドラマ化され、毎週土曜日夜はテレビにかじりついて見たものだ…
『野性の証明』は映画のインパクトが相当強すぎた
主演高倉健と薬師丸ひろ子という異色の取り合わせ
「か?い?か?ん」の台詞は凄みと色
気が滲み出ていた

そこから僕は森村誠一から離れる

離れた理由はこれといってない

今般偶然に立ち寄ったコンビニに森村誠一があった

「棟居刑事シリーズ」

一度読んでみたい
そういう僕の思いと赤の背表紙が見事に重なった…

本作品は人間の縁を取り上げる
但し縁も色々だ…
ここでは奇縁を超えて凶縁にまで行き着いてしまう

縁は宿命でもある
そういえば「証明シリーズ」もまた逃れられない深縁をテーマにしていたように思う

小説は人間を描く
だから結果的に縁というテーマからは逸脱はしない
しかし奇縁や更には凶縁にまで及ぶがどうかは描かれる人間による

そして作家の自ら設定したテーマへの執着にもよる
結局作家はそれについて決して振れることはない
もちろん森村誠一も例に漏れず

僕にとって「棟居刑事シリーズ」は始まったばかり
楽しみが増えた
2021-05-03 00:00:05[499]


経済小説
『出世と左遷』
高杉良
新潮文庫

経済小説というジャンルを僕は具体的には知らない
出世も左遷も両方に縁のない僕にはそこに蠢く疼くような人心にのみ興味を唆られる
経済小説と他のジャンルの明確な線引きはどこに求めればよいのか

かつてドラマ化された作品を読むきっかけはそうした懐疑的な心情からも十分起こる
因みに僕はそのテレビドラマのことを全く知らない
だから不必要な先入観に全く囚われずに読み進められたのは実際は幸いなことだった
だがしかし未だ…
経済小説というジャンル分けについては僕の感覚にはピンとこない

会話を通して当該人物の顔や表情を思い浮かべる…
それだけではない
腹の奥の奥底まで嫌という程に類推できてしまう…
人事がクリーンなものでないことなど僕も含めて誰でも知っている

組織がそうした人事によって成り立っていることも周知の如くだ
人事は極めて醜い
その醜さを著者は醜いものとしてありのままそのまま小説にした

誇張もなければ遠慮もそこにない

興味深さはそういうところから沸々と湧いてくる
しかしそれまでだ
地獄に堕ちて二度と這い上がれないサラリーマン…
朽ちていく組織…
僕はむしろそういう過程に相当の好奇心を覚える…

僕の「ド-S」振りはもうこの辺り
にしておきたい

小説は無知な世界を拡げてくれる

知った被りなど許してくれない
だから次へと繋がっていくのだ…
2021-04-19 07:45:11[498]


横溝正史
横溝正史
金田一耕助
名前を聞くだけでゾクゾクする…
そのゾクゾクはどこから来るのか

それは繰り広げられる事件の余りの陰惨さだろう
だがしかしただ陰惨なのではない

そこには必ず生身の人間がいる
愛憎と愛情と怨恨と遺恨が渦巻く

殺さずにはいられない
それは単なる欲求ではない
それは運命であり宿命でもある
人間の持つ悲しさとやるせなさ
横溝正史の世界はもはや推理小説の枠を遥かに超えてしまっている
『犬神家の一族』はその象徴たる名作中の名作だ

『仮面城』を最近手にとってみた

何とも表紙がいい
角川文庫はそこから始めてくれる

だからいいのだ
2021-03-29 00:00:26[497]


寺田寅彦
肩書を並べよう
物理学者であり、随筆家であり、
更に俳人でもある
野暮な表現だが理系と文系の異なる分野を見事に上手く使いこなす


名随筆を挙げる
『柿の種』
ここには随筆家だけではなく俳人としての顔を覗くことができる

『地震雑感-津波と人間』
中公文庫
『天災と国防』
講談社学術文庫
いずれも随筆でありながらその領域を見事なまでにはみ出している

評論と随筆を合わせ持った名著だ

余談をひとつだけ
中勘助の随筆中に夏目漱石との交わりが登場する…
先生と生徒、先生と学生、そして文壇の先輩後輩…
更には死の直前までの関わりがそこに記されている
随筆中に寺田寅彦の名を一度だけ見ることができる
その夏目漱石に師事した文学者としての寺田寅彦…
漱石と中勘助と寺田寅彦の三人…
何ともその取り合わせは贅沢だ…
だから文学はいい
2021-03-22 00:14:11[496]