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エッセイ
ああ言えばこう言え!
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ああ言えばこう言え!その49

 ジョークは人間関係の潤滑油となり得る。また周囲に明日への活力を与えることもある。もちろん、人を傷つけるようなものはいけない。それ相応の配慮も必要である。また、ジョークにはある程度の能力が備わっていなければならない。実は、ジョークとは配慮と能力によって生み出された言葉の結晶なのである。
 私の知人の祖父は、まさにジョークの天才とされる人物であった。配慮と能力はもちろんのこと、そのスケールの大きさは、未だに血縁関係者に語り継がれている程である。
 ある年のお正月のこと、知人は祖父にお年玉の希望金額を聞かれたそうである。知人はいい加減な気持ちで「10万円」と答えたのだが、お年玉の袋ではなく、祝儀袋に入っていた金額はまさに希望金額の10万円だったという。返金しようとした知人の母に、祖父は「大人は嘘をついてはならんのじゃ」とあっけらかんとしていたらしい。これはジョークをはるかに超えて、まさしく本気モードである。
 他でも、その天才ぶりは如何なく発揮された。買い物の際の値段でも、実際は200円のところ、威勢良く店員が「まいど!200万円!」と叫んだ。そこで祖父は財布を空にして「とりあえず20万円はある」と本当に支払おうとしたものだから、周囲は必死になってそれを止めたという。ジョークにはジョークで対抗しようとした祖父の天才ぶりがよく表れていると評価は高い。
 その後、この祖父は亡くなったが、それはジョークではなく事実だった。しかし、ジョークかもしれないと密かに話し合ったとされる。これもまた高い評価を得ている話である。

甲山羊二
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