牧場小屋
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エッセイ
ああ言えばこう言え!
目次
ああ言えばこう言え!Ⅱその9
僕は音楽が大好きである。まだ随分若かった頃、音楽で身を立てようとさえ思った程である。中学ではフォークギターをかき鳴らし、高校ではロックギターを大音量で弾きまくった。そして大学ではJAZZに没頭して、なぜか肩まで髪を伸ばして、ひたすら女の子のお尻を追い求めた。何もかも若さゆえである。
4回生になって、周囲が次々と就職を決めていくなかで、僕は本当に何もしなかった。何もせず、下宿で朝から酒をあおっていた。なぜか。答えは簡単である。髪を切るのが嫌だった。それだけである。もう生えてこなくなるのではないか。それも二度と。
つい最近のこと、あるレトロな居酒屋でバンバンの「いちご白書をもう一度」が流れていた。この曲がヒットしたのは僕が小学校高学年の頃だ。以来、この曲は僕にとっての名曲となった。その後、JAZZに没頭するようになっても、ずっと変わらず名曲であり続けた。
その夜、僕はカウンターにいて、黙ってこの名曲を聴いていた。すると隣の若い女性がどうしたのかと心配そうに僕の方を覗き込んだ。それで僕がさっきの髪の話をすると、女性は急に吹き出してしまった。
「先生にもそんな時代があったんですね」
そう、あったのだ。そんな時代が僕にも。そして髪はまだきちんと生え続けている。
甲山羊二
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