牧場小屋
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エッセイ
ああ言えばこう言え!
目次
ああ言えばこう言え!その20
犬派猫派という言葉がある。
あなたはどちら派と尋ねられると、私は必ず犬派と答えることにしていた。
私には、犬を飼った経験はあっても、猫を飼った経験は全く無い。
それに、どんな犬でも私に対する親近感を体全体で示してくれるにもかかわらず、猫は近寄る気配も見せず、ただ背中を丸めて鳴くばかりである。
いや鳴くだけならまだよい。少しでも近寄る仕草を見せようものなら、プロボクサー並の反射神経でもって、私から離れていってしまう。
私から距離を置き、まるで見返り美人のような振り向き様である。
そのようなこともあって、庶民的な犬に対し、猫は高貴な生き物のような気がしてならなかった。

しかし事件は起こった。
あの高貴な猫が、後ろ足を踏ん張りながら大便をする姿を目撃してしまったのである。
瞬きしながら小便や大便をする犬を見かけない日はない。ただ、それが猫となれば話が違ってくる。
どんな大女優であっても大便くらいはするであろう。
ということは、どんな高貴な猫でも、やはり大便の一つや二つはするということになる。
ただし問題は場所とその様子である。
既に車が出払ったガレージで、これまた見返り美人の振り向き様で、しかも私としっかり目が合ってしまったのであるから、猫としても相当きまりが悪かったに違いない。
それでも、排便を我慢するのには限界だったのだろう。後ろ足を小刻みに震わせながらの続行となってしまったのである。
この事件以来、猫という存在が愛らしく思えてきたから不思議である。
それからというもの、全ての猫がきまり悪そうな表情で私から去っていこうとする。
あの事件はすぐに猫社会に広がり、その動揺がしばらく続いているのだろう。
猫とお近づきになるには、もう少し時間がかかりそうである。
甲山羊二
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